- 人はお金を稼ぐために働いているが、それがモチベーションではない
- お金は基本的な欲求であり、そのように扱われるべきである
- お金の話 を議論するのはやめよう
- サラリー数式 - 仕事への報酬を公正公平にするやり方
- Nozbeのサラリー数式の構成要素
- サラリー数式の計算方法
- サラリー数式があれば採用時にもお金の交渉をする必要がない
- 性別や人種による偏見は一切なし!
- サラリー数式の欠点
- 1つのキーポイント: お金は数式に任せよう!
人はお金を稼ぐために働いているが、それがモチベーションではない
私も隣にいる人と同じくらいお金は好きですが、これまでのたくさんの研究から、お金のために仕事をしているのではないというときにこそ、人は本当に幸せになれるということが分かっています。もちろん、生活が苦しくて、家計のために何が何でもお金を稼ぐというのが働く理由であるという人も多いでしょう。しかし、マズロー (Maslow) の欲求ピラミッドが示すように1、人は基本的な欲求が満たされると、次に人間関係や名声、達成感、可能性の実現などといった社会的欲求や自己実現の欲求を優先するようになります。
お金は基本的な欲求であり、そのように扱われるべきである
お金は人間の基本的な欲求であるというレベルを超えてビジネスがお金を稼いでいるのを見ると、私は混乱してしまいます。複雑なボーナスのスキームやパフォーマンスの評価基準、精巧に作られた様々な 馬の鼻先にニンジン のようなシステムは、より一層人々をお金で働くよう動機づけ、よりたくさん働かせてしまうのを助長しているのです。
そのようなアプローチの問題点は、金銭的な目的が達成されると、人はその仕事への興味を失ってしまうということです。お金が全てだった時は、誰が仕事の質を気にするでしょうか。コストがかかっていたとしても、ボーナスがもらえさえすればいいのです!
あなたは人々に仕事にワクワクしてほしいのであって、お金にワクワクしてほしいわけではないでしょう。
お金の話 を議論するのはやめよう
お金の話をするのは楽しくありません。特にあなたが交渉をしなければならない時にはなおさらです。支払う側は可能な限り少なく払うことを望み、もらう側はできるだけ多くもらいたいと望むのが当然です。これらは相反する動機であり、ほとんどの場合、その結果によって誰も本当の意味でハッピーになることはありません。
数年前、私はある会社のやり方に感銘を受け2、私はお金の交渉をするような状況を変えようと思い立ちました。そして、サラリー数式 を導入しました。これは、チーム全員の給与の値を予測するための計算式です。
サラリー数式 - 仕事への報酬を公正公平にするやり方
なぜ給与に数式が必要なのか?
- 全てのチームメンバーに公平である - このような計算式を導入することで、多くの企業を悩ませている、チームメンバー間の給与格差と言う問題を排除できます。同じ仕事をしている他のメンバーと比較して、全員が公平に報酬を受け取ることを可能にします。
- 毎年必ず給与を上げる - 何が起こっても、毎年自動的に給与が上がっていくように数式は設定されています。今の時点より給与が少なくなることはありません。
- 給与を誰でも予測可能にする - これにより、自分が今どのくらい稼いでいるのか、それはどのように計算されているのか、来年どのくらい上がるのかなどを正確に知ることができるので、チームメンバーに安定と安心感を与えることができます。会社にとってもキャッシュフローや予算の予測が容易になるので、健全で収益性の高い状態を維持することができます。
それでは、どのようにして私たちがサラリー数式を導入していったのかをこれから見ていきましょう。注意していただきたいことは、その数式は決して普遍的なものなどではなく、企業によって異なったアプローチがなされています。これは私たちの一例であり、これから数年の間には改訂されることも十分考えられます。この事例を参考に、ビジネスオーナーやマネージャーといった方々がご自身の数式導入への第一歩にしていただけたら幸いです。
Nozbeのサラリー数式の構成要素
Nozbeのサラリー数式は以下のもので構成されています:
1. ベースサラリー- 基本給
ベースサラリーとは、各社員ごとに区分された現在の市場価値水準の給与です。市場の状況や会社の収益に応じて毎年改訂されます。値は同じままか、上がっていくかのどちらかです。
会社の収益を増加させて ベースを上げる ことを目指して一緒に仕事をしていく、ということがチームとしてのゴールです。こうして皆が同じように公平に給与の増加を享受します。
ベースサラリーを上げることが私たちの目指す 主要な目標です。私たちのビジネスが健全であれば、来年はより高い給与を享受することができます。
私たちのチームには様々なカテゴリーがあります:
- CXO - C-executives - 今のところCEOとCTOのみです
- VP - VP (Vice Presidents) (課長) - サポートVP、ファイナンスVP、マーケティングVP、プロダクトVP
- Dev - エンジニアリングチーム
- マーケティング - マーケティングチーム
- サポート - サポートチーム
同じカテゴリーの人は皆同じベースサラリーです。
2. 勤続期間 (年数、ウェイト: 2 ポイント)
私たちも会社への忠誠を評価しますので、Nozbeでの勤続期間が長ければ長いほど給与は高くなります。毎年1月にアップデートされ、自動的に全体の額に反映されます。
多くの企業や欧州連合の機関でもこれを給与計算の主な指標として使っていますが、実は私はそれがあまり好きではありません。私もチームに長く貢献してくれている人を評価しますが、ただ先に長くそこにいたというだけの人が、チームには新人だけれども、他の場所で豊富な経験を持ち、専門知識を多く持っているという人よりも多くの給料を得るべきだとは思いません。
3. 習熟度のレベル (ポイント, ウェイト: 10)
採用の段階で評価されるあなたの専門性のレベルです。チームメンバーは誰でも上司の合意の下、新しいスキルを学んだり現在のスキルを向上させたりすることでこのレベルを引き上げることができます。
しかし、これは個人的なものなので、レベルを引き上げるというのは二の次の目標です。あなたが仕事できちんと成果を出している限り、同じレベルに留まっていても構いません。まずは同じカテゴリーの人と一緒に「ベースを引き上げる」ことに主眼を置くべきなのです。
私たちのサラリー数式では、チーム第一というルールを守っています。自分は二の次です。
4. タグ (ポイント, ウェイト: 5)
タグとはその人が請け負っている他の責任のことです。その人の職務内容には記載がないようなエクストラなものです。
例えば、カスタマーサポートチームに所属する人でマーケティング業務も担当している人は、マーケティング のタグが付きます。フロントエンド開発者でAndroidプラットフォームの担当をしている人は、プラットフォーム のタグを付けています。この本の編集者であり、コンテンツの責任者でもあるマグダは、採用活動をしたりと会社全般のこともコーディネートしているので、コーディネーション のタグが付いています。
重要な注意点: 会社の「役員」を担っているVPやCXOレベルの社員にはタグは付きません。あまり意味がないからです。会社の役員は様々な仕事をしていて たくさんの帽子を被っている ので、タグを付けるとなると、ほとんどのタグを付けるということになってしまうからです。
サラリー数式の計算方法
まず、全てのパラメーターのウェイトを計算します。勤続期間、個人ごとの レベル、そして タグ を確認します:
追加分 = 期間のウェイト x 年数 + レベルのウェイト x レベル + タグのウェイト x タグ
その追加分をベースサラリーにプラスします:
サラリー合計 = あなたのカテゴリーのベースサラリー X (1+(追加分/100))
サラリー数式計算の例
ここで実際に計算してみましょう。とても簡単です。ベースサラリーが1ヶ月に1000 EURだと仮定しましょう。もちろんこの金額は市場価格よりも低いものですが、ここでは計算方法を分かりやすくするためにこの数字を使います。
今評価する人には、2年の勤続年数があり、レベルが3で、1つタグが付いているとします。それでは、追加分を計算してみましょう:
追加分 = 2 x 2 (勤続年数) + 3 x 10 (レベル) + 1 x 5 (タグ) = 39
次に、給与金額を計算します:
サラリー = 1000 EUR x 1,39 = 1390 EUR
なぜチームワークが個人の成績よりも給与に影響するのか
それでは、ベースサラリー (基本給) を10%だけ上げるとどうなるか見てみましょう。
新しいサラリー = 1100 EUR * 1,39 = 1529 EUR
そうなのです、給与全体が10%上がるので、139 EUR上がるのです!
しかし、個人の成績だけに焦点を当て、努力して個人のレベルを3から4に1ポイント上げたとして (それは33%も向上させることを意味しますが)、ベースサラリーは同じだとすると、こうなります:
追加分 = 2 x 2 + 4 x 10 + 1 x 5 = 49
新しいサラリー = 1000 EUR * 1,49 = 1490 EUR
合計は上がってはいますが、チーム全体での努力のほうがより給与の上昇に寄与しているのが分かりますね。
サラリー数式があれば採用時にもお金の交渉をする必要がない
採用時にも、そのポジションの予想給与を簡単に公表することができます。サラリー数式に入れて、レベルを大体1か2で変動させてみるだけで、給与の表 が出来上がります。それがその仕事に払える金額です。それ以上ではありません。それ以下でもありません。
こうすることで、会社のオーナーとしての私の仕事も楽になりました:
- VPの一人がそのチームに誰かを採用したいという時にも「そのポジションにいくら支払えばいいだろうか?」 と私と相談する必要はありません。サラリー数式で計算すればすぐに答えが出るのですから。
- 給与の交渉に関しても、もはや社内ではほとんど行われません。個人の成長レベルについてだけ話せばいいので、お金の話をする必要がないのです。
- 私が独断で サラリー数式 を決めているのではありません。役員のチーム 全員で決めています。定期的に皆でそのシステムを見直し、それが公正で公平なものかどうかを確認しています。
性別や人種による偏見は一切なし!
2020年になっても未だになぜこのことが問題となっているのか、私には理解できません。個人的な話ですが私には3人の娘がおり、将来彼女たちが社会の中で男性と同等に扱われることを当然のこととして考えています。サラリー数式 には性別や人種という構成要素はありません。ずっとそうしてきましたし、これからも当然そうであるべきです。
サラリー数式の欠点
そのようなサラリーシステムは、あらゆるチームが導入する価値があるものだと私は確信していますが、そこにはいくつかの欠点があります:
- ビジネスや仕事がうまく行った結果、中には給与上げを交渉したいと考えたり、他の人より高い給与をもらうべきだと考える人も当然ながらいます。すると、このシステムはそういった人のためにはうまくできていません。彼らはこの計算システムを公平だと感じなくなり、その結果、計算システムに不満を持ったり、チームを離れることになってしまったりします。
- このシステムは実際には他社から人材を引き抜くことを不可能にしています。個人個人に合わせたレバレッジのある給料を用意できないからです。しかしながら、採用する会社が本書で紹介しているような働き方を採用していて凄く魅力的な職場環境であるため、どうしても一緒に働きたいと思ってもらえるという可能性はありますが。
- 競争相手が人材を引き抜くことを容易にします。競争相手は自由により良い条件を提示できるので、サラリー数式 に従っただけのオファーだとそれには対抗できません。
これらはもっともな懸念事項ではありますが、公平な サラリー数式 に特に不満もなく、お金について頻繁に話す必要がないようなチームで働きたいと私は思っています。私の唯一の心配事は、毎年チームの ベースサラリーを上げ、#NoOfficeチームで仕事をしている限りは最高の報酬が払われるように、会社として十分な収益を生み出すことです。
1つのキーポイント: お金は数式に任せよう!
透明性があり、公正かつ公平な サラリー数式 に従って給与を決めることで、チームがより仕事にフォーカスできるようになります。自分の給料が十分支払われているのかと疑問になったり、同僚が自分よりもっと稼いでいるのではないかと不安になったり、上司と給料の交渉をしなければと思案したり、というような無駄な時間を過ごすことがなくなります。公正で透明性のある給与システムは、より良いチームスピリットを生み出すのです。
人々のモチベーションについてもっと詳しく知りたい方は、ダニエル・ピンク著 Drive を読むことをお勧めします3。
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それは ポーランドのソフトウェアハウスEl Passion のプレゼンテーションでした。その後私は Bufferの給与システム を調べ、さらに、EU機関の給与方式とも比較しました。 ↩